「という事だから、私はまみを恨んでないわ。ここに来る口実に利用してただけ。あの子って扱いやすいのよね。“いい子にしないと、ママが帰って来ないよ!”って怒鳴ると、すぐに大人しくなっちゃう」


やっぱりか。麻生さんの思った通りなんだわ。まみちゃん、可哀想……


「君って奴は……」

「でもね、その女の事は恨んでるわよ?」


えっ? 私?


「後からのこのこ来て、私の邪魔をして……」


ああ、そういう事ね。


「どいて!」

「ひゃっ」


美沙さんは、包丁を持った手で新藤さんの腕を横から押したけど、新藤さんは微動だにしなかった。


「どかないと、あなたを刺すわよ」

「……好きにすればいい」


えっ? 嘘……

新藤さん、そんな事言っちゃ……


その後、しばらく沈黙の時が流れた。たぶん、新藤さんと美沙さんは睨み合っているのだと思う。そして……


「いいわ。どうせ私のものにならないなら、死んで? 私も後を追うから」


えっ?


「ダメーッ」


考える間もなく、私の体は動いていた。新藤さんに抱き着くのと、背中にドンという衝撃を受けるのは、殆ど同時だったと思う。


「莉那!?」


あ。新藤さんが初めて名前で呼んでくれた……


なんて事を思っていたら、背中に焼けるような痛みが走り、目の前が暗くなってきた。


「莉那、君はなんて事を……」

「……まみちゃんの……ママに……なりたかった」


必死にそれだけを言うと、私は深い深い闇へと落ちていった。