美沙さんは私を振り向くと、さっきまでと同じ目つきで私を睨みつけた。


何か言われるのかしら、と思ったけど、再び新藤さんを向き、


「今夜のご飯は何にしましょうか?」


などと言った。あくまでも良い奥さんぶるつもりらしい。奥さんじゃないけど。


でも新藤さんはそれには応えず、無言で靴を脱ぐと美沙さんの横を素通りし、私の横に立った。そして、


「美沙さん、今までありがとう。でも、これからはいいですから」


と美沙さんに告げた。それは静かで穏やかな声だったけど、それでいて彼の固い決意が込められていると、私は感じた。


「な、何を言ってるんですか? 私は好きでしてるんだから、遠慮なんかしないでください」

「いいえ、僕は遠慮で言ってるのではありません。まみのためです」

「まみちゃんの? どういう事かしら?」


美沙さんは、あまり大きくはない目をわざとらしく瞬(しばた)いてみせた。あくまでも惚けるつもりらしい。


「もしかして誤解されてるのかしら。確かに私はまみちゃんをきつく叱る事があるけど、それはあの子のためを思ってなんです。子どもって、放っておくと悪い事ばかりするでしょ? 将来ろくな子にならないから……」

「まみちゃんはそんな子じゃありません!」


私は思わず大きな声を出してしまった。だって、あまりにも腹が立ったから……