私がそう呟くと、新藤さんは下を向いたままだけど、肩の辺りが微かにピクッと反応したような気がした。気のせいかもしれないけど。


「竹宮さんっていうんですけど、とっても優しいし、私の事をすごく好きらしいんですよね。やっぱりそういう人と結婚した方が、女は幸せかもしれないですよね。“愛するより愛されよ”でしたっけ?」

「…………」

「時が経てば、きっと私も竹宮さんを好きになれると思うし、竹宮さんの事は父も母も知っていて、彼ならたぶん歓迎されると思います。竹宮さんは真面目なだけじゃなく……」

「やめろ!」

「はい?」

「もうその男の話はやめてくれ」

「どうしてですか? 新藤さんが勧めてくれたから、私はその気になってるんですよ? せっかくだから、竹宮さんの事をもっと説明しますね? 竹宮さんは真面目なだけじゃなくて……」

「やめろって言ってるだろ! その名前はもう聞きたくない!」


新藤さんは顔を上げるのと同時に、怖い顔で私を怒鳴り付けた。お店の中が、シーンと静まり返るほどの大声で。