なぜかまみちゃんはピクっと反応し、黙り込んでしまった。新藤さんは首を捻り、「誰だろう」と呟きながら、リビングを出て行った。

もしや……と思いながら聞き耳を立てていると、やはりまた女性の話し声が聞こえて来た。


また来たんだわ。美沙さんが……


がっくりとしょげ返っていると、気のせいか難しい顔をした新藤さんが戻って来た。そして私を見て、何かを言いたそうで、それでいて何て言っていいか分からない、といったご様子。

私はすくっと立ち上がり、


「私、帰りますね」


と言った。顔に笑顔を貼り付けたつもりだけど、上手に笑えてるかはちょっと分からなかった。


「そうか。送って行くよ」

「い、いいえ、電車で帰りますから大丈夫です」

「そんなわけには行かないよ」

「いいえ、本当に大丈夫です。それに、美沙さんを2時間も待たせるわけには行かないですから……」


と言ってから、内心では、“構わないさ。勝手に来た彼女が悪いんだから”みたいな返事を期待したのだけど……


「そうなんだよな。じゃあ、せめて駅まで送って行くよ」


と言われてしまった。


「まみちゃん、バイバイ」

「おぷろは?」

「ごめん、今度ね?」

「うん……バイバイ」


まみちゃんは泣きそうな顔で、それでも健気にバイバイしてくれた。私も、泣きたい気持ちだった。