「気付いた時は遅かった。妹の美沙さんがちょくちょく家に来てくれるようになり、僕もなるべく早く帰宅するようにはしたんだが、ある日どうしても僕が行かないといけない出張があって、その晩……由梨は剃刀で手首を切った」


新藤さんはそこで言葉を切り、車内が重苦しい静寂に包まれたように私は感じた。でも、それを破るような気の利いた言葉は、私には何一つ思い付かなかった。


「当時、まみはまだ1歳になったばかりで、何が起こったのかは全く解ってなかった。それがせめてもの救いかな」


という事は、ちょうど2年前の事なんだわ……


「僕は日電を辞め、由梨の実家とは絶縁状態になった。ついこの間、由梨の三回忌の法要があったが、誰も僕に話し掛ける人はいなかった。自分の実家とも疎遠になってる。そっとしておいてくれてるのかな、とは思うけどね」

「そんな……」


亡くなられた奥様はもちろんお気の毒だけど、新藤さんもお気の毒だと思う。ものすごく。


「仕方ないさ。由梨が死んだのは僕のせいなんだから。まみを取り上げられないだけ、むしろ有難いと思ってる。もしまみがいなくなったら、僕はもう……」

「新藤さん!」


私は思わず新藤さんの左腕にしがみ付いた。“僕はもう”の続きを言ってほしくなかったから。

私は、新藤さんの肩に顔を寄せながら、溢れる涙を止められずにいた。