「彼女の名前は由梨というんだ。日電の役員の娘で、その人の紹介で僕らは知り合い、間も無くして結婚したんだ。5年前にね」


私は、奥様、つまり由梨さんのお部屋で見せていただいた、彼女の遺影を思い浮かべた。私と同い年ぐらいの、とても可愛い女性を……


「そしてあの家を建てたんだが、当時の僕は仕事一辺倒でね。それは結婚する前からそうなんだが、家にいる時間はほんの僅かで、何日も帰れない事もあった。そのうちまみが生まれたんだが、それは変わらなかったよ。仕事が面白くて仕方なかったし、働く事が僕の役目だと思ってたからね。家族のために。由梨が寂しい思いをしてる事に、僕は気付かなかった。いや、気付こうとしなかったんだ」


私は、前に課長から聞いた新藤さんに関する噂を思い返した。やはりあの噂は、本当だったんだわ……


「いつからか、由梨はアルコール依存症になっていた。寂しさを紛らわそうとしたんだろうね。それに育児ノイローゼが加わり、由梨の精神はボロボロだったんだと思う」


やだ。涙が出て来ちゃった……