妄想世界に屁理屈を。



ようやくついた鳥居の向こう側に、彼女はいた。


ベンチに厚着をしてちょこんと座っていて、小さく真っ白な息を吐く。

ながい黒髪がピンクのマフラーのせいでもっこりと膨らんでいて、やけに愛らしい。


「も、もせ…っ」


百瀬縁。

俺の、片想いの相手だ。


「……?」


息なのか、名前なのかの区別もつかないような声に、百瀬は反応して。




「――誰…ですか?」




こてっ、と頭を傾げた。


「……あ」


すう…と目の前の景色が揺らぐ。

今までの疲労が一気に来た。



「(うわぁああああああっ)」



俺としたことがぁあああっ


『百瀬』が先走るがあまり、ニョタ化の現状をすっかり忘れてた。

だって、俺が見る景色は今までも変わらないのだ。
体を四六時中見てるわけじゃないし、女女とずっと悩んでる訳にもいかない。

だから――そう、忘れてたのも無理はない話なのだ。

そして当然、百瀬は俺の現状を知らない。

だから他人と認識するのは当たり前。


…なんか、もう、疲れた。