妄想世界に屁理屈を。


走った。


身を切るような寒さが気にならなくなるぐらい全力で。


「はあっ…はあっ…」


スカートが足に絡み付く。

靴がうまくはけてなくて、すこし折れているせいか痛い。

伸びた髪が顔にへばりつき、とるのももどかしく走る。


「ん…く、はあっ…」


“おい柚邑!ちょ、おいっ”


さっきから朱祢が話しかけてくるが、無視。

遅れてはいけない。ただその一心で。


ミズクメ神社は、漢字で藻女神社。

俺が通う高校の裏にある、今はもう使われてない(らしい)神社だ。

神社のくせに境内にベンチがおかれていて、さながら公園。

お金がない学生のカップルにはありがたい存在だ。

……まあ、俺らはカップルじゃないけど。


15分程度を全力で。

景色なんか目にはいらないほど。


「んっく…」


ごくんと自棄に冷たい唾を飲み込むと、息がぐわっと詰まる。

思わず咳き込みそうになるが、無視。


「かはっ…」


ただ、夜を走った。