「あっ…ゆ、柚邑くんね、今……厘介くんのお家に泊まってるの、聞いてない?」
必死だった。
「え?あ、うん知らない」
嘘をつくのに慣れなくて、つい舌がうろうろと迷子になりそうになる。
「で、実は俺がここに来たのは、柚邑くんの服をとりにきたからなの。それをこの家が楽しくて忘れて…て…」
無理矢理だ。
が、我ながら咄嗟とは思えない出来の良さ。
「今すぐ届けに言ってやらないと!ね?」
「それって、兄さんのパシりってこと?」
なぜそうなる!?
「うん…まあ?」
「…ちっ、帰ってきたら殴り飛ばす」
帰りたくねぇええ…
「ならゆーちゃん。お母さんたちに挨拶してやって?喜ぶから」
それもそうだ。
夕飯までご馳走になって(いや自分の家だけど)無言で帰るのはちょっとよろしくない。
マナー違反だ。
「そうだな…そうするか」
蜜柑の言うことも最もである。
「お母さんー!ゆーちゃん帰るってー!」
廊下と階段を闊歩しながら叫ぶと、ダッシュで母さんがやってきた。
早すぎるぞ母さん。
なぜか頭に泡がついていて、洗い物中だとわかった。


