妄想世界に屁理屈を。



村の近くに橋があったため、川の向かいにおりたつ。

「なんで村の人が行かないの?」

「あー、なんか怖いんだってさ。何もないのに怖がるらしい」

「ふぅん…変わってるね」


ふたりで川下をあるいて15分程度。
ついたのは、あの黒庵さんが目覚めたという場所だった。
洞窟みたいな暗い場所。
先ほどは入れなかったから遠巻きだったけど、川の水が入って来てるらしく、じめっとしていて地面が濡れている。

「ここ…村のものだったんだね、ゆーちゃん」

「うん…あ、香の匂いがする」

線香みたいな匂い。

なるほど、さきほどの黒庵さんの匂いはこれか。

謎が一つ解けたな。

スズと一緒に恐る恐る中に入った。
強くなる線香の香り。


「櫛名田比売さぁーん」


呼ぶと、反響してきた自分の声。
しかし返事はなかった。

けっこう広いらしく、奥底に行けば行くほど暗くなっていく。

スズがぎゅっと袖を掴んでくる。
大丈夫大丈夫と頭を撫でながら、また進む。


ぽちゃん、ぽちゃんと水が滴る音がする。

もう一度、声を荒げた。

「櫛名田比売さぁーん!いますかー?」

返事がない。どれほど遠くに行ったのだろう。
線香の匂いはますます強くなるが、彼女の気配は全くと言っていいほどしなかった。
もう視界がきかなくなってくるほど暗い。

「…怖い」

そう訴えてきたスズをよしよしと頭を撫でてやる。
これ以上は進めないな。

もう先に帰ったのかもしれない、引き返そうかと告げようとして。



一一ぱしゃんっ



誰かの勢いよく水を踏む音。

櫛名田比売か、と暗いあたりを見回した。




一一ガンッと、頭に衝撃がはしった。




「っ、!?」


殴、られた。


なにか鈍器のようなもので。


頭の芯がぐわぐわと揺れる。脳みそが揺さぶられる感覚。
いそいで頭を抑えようとしたが、そのまえに足が崩れた。

やばい、打ち所悪かったか。

気がついたら川の水が流れる地面へ、倒れ込んでいた。


「ゆ、ゆーちゃん!?」


スズの叫び声。
暗いから何が起こったからわかんないんだろう。

頼むから逃げてと告げようとして。


「きゃっ一一…」


ガンッと鈍い音がして、スズの小さな悲鳴。


ああ、遅かっ……