妄想世界に屁理屈を。



八岐大蛇に供物を捧げるのは、一年に一度の夜。

必ず一人、若い生娘を出すという。

今年は櫛名田比売(クシナダヒメ)という女の子らしい。

伝説では、どうやらお酒で八岐大蛇を酔わしてから殺すらしいんだけど。


「…酒がないって…」
「そんなに不安がるなってゆーちゃんよぉ。
俺様スサノヲより強い自信あるぜ?」

どうやら、この村には樽8つぶんのお酒がないらしい。
樽が一つ分しかないそうだ。

おかしいな、ここら辺は史実に忠実じゃないのか。
赤龍、意味がわからない。


「大丈夫なのか、黒庵」

「だいじょーぶだいじょーぶ。蛇だろ?しかも首落としゃあいいんだろ?簡単簡単」

不安そうな鸞さんをよそに、軽くあしらう黒庵さん。

まあ強いには強いし、大丈夫だと思うけど。



「そこの、おいお前」


急に話しかけられたので振り向けば、先ほどの長老だった。
どうやら俺ご指名らしい。

「この川の向かいを降りたあたりに祠がある。
その祠に生贄となる櫛名田比売がおるから、連れてきてはくれないか?」

ミイラみたいなからだで結構大きな声をしている。
不思議な神秘を感じるひとだ。

「え…お、俺?」

「祠で生贄になるために、さきほどから湯浴みと香で身を清めている。
見た限り一行の中でお前が一番年の近そうだ。
警戒心が強い子ゆえ、同じ年頃なら良いだろう、連れてきてはくれないか」

年で指名されたの、俺?

「…でも、それなら村の人の方が」

「いいや、村の者は近寄れんのだ」

「え?」

「何もないのに気味悪がってな。いや何、本当に何もないから安心して迎えに行ってはくれないか」

「ええ…」


そう言われても怖いことは怖い。
どうしたものか、なるべく一人は嫌だなぁ。ここ異界だし。


「どうしたの、ゆーちゃん?」


すると長老に捕まってるのが目に入ったらしく、スズが話しかけてきてくれる。
テコテコと近寄ってきて、首をかしげた。

「なんか櫛名田比売さんを連れてきて来いって…」

「あ、じゃあついてってあげようか」

「…では2人で行ってきてくれ」

許可してくれたので、2人で向かうことになった。