妄想世界に屁理屈を。



しかも何やらミサキくんは複雑な事情を抱えているみたいだ。

俺の知りえない、こんがらがった生前。


アカネも理解していないみたいだし、たぶん秘密を知り得ているのは黒庵さんだけなんだろう。



「…いい人だよね、ミサキくん」

唐突にスズがそう言ったので、黙って頷いた。


自殺を図ったミサキくんを必死に止めた気持ちが、今ならすごいわかる。



彼は本当に俺たちの一歩前に立って奔走してくれる。


命じたわけでもないのに、善意で。



“お?”

「どうしたのアカネ?」

“いや…だありんの声が…”



そう言われて耳をすますも、無音。

さわさわ木々が風に揺れる音と、己の息遣いだけである。


「え?聞こえないけど…」

“ううん…たしかに聞こえる。
おおーーいっ!だありん、私はここだー!”


すると、さわさわという音が大きくざわざわという音になって。



「…ぅうおおおおおああかぁんねぇええええ!!!」



凄まじい雄叫びとともに、後方から何かがジャンプして俺らを飛び越えて、目の前へ降りてくる。


ざざっ…と土やら落ち葉やらを踏んで、衝撃で滑りながら止まって。

「アカネちゃん!!!」

なぜか奴は俺を抱きしめてきた。


ぎゅうう。

それでも圧迫しないように気を使ってはいるらしく、息は出来た。



「…えーと、」


蜜柑が見たらなんとも喜びそうな絵面である。