「あ…ゆ、ゆーちゃん…」


スズが心配そうにこちらを見てきて、でもなぜか荼枳尼天さんに隠れた。

「ん?どうしたんだい朱雀」

「ちょっと…」


甘えるように寄りかかった。



「なんでこんなことをしたんですか」


ミサキくんが問えば、またうーんと体をひねった。


「だって命令だし。
向こうがなに考えてるかなんてわかんないよー」

「また冗談を。あなたが考えを読めないことないでしょう」



ぐっ、とミサキくんが、淡く光る青色の角をつかんだ。

怒ってる。

相変わらずな表情だけど、鳥肌が立つような殺気がすごい。


「一一この便利な角、さぞお高く売れるでしょうね」

「っ!」

顔を大きく歪める天探女。


「悟(サトリ)の能力を持つ角なんてなかなかありませんし…」

「おいミサキ」


ガシッと、漆黒の男に角を掴む手をつかまれた。


「…なに、どうしたんだよ」


そう、ミサキくんらしくない。

怒ってるのだ。

あのミサキくんが怒って、そして行動している。それも強行手段の。


「…気に食わないのです。
人間が弱い精神的なもので柚邑殿を狙うことに」


「…ミサキ…」

切なげに名前を呼んだ黒庵さん。

ああ、たぶん一一ミサキくんはわかるのかもしれない。

亡霊とか言ってたから、昔は人間だ。


だから経験したのかもしれない。俺以上の苦しみを。


「俺なら平気…」

「だ、だめ。
平気じゃないよ」


ぎゅ、といつの間に来たのか、スズが俺のスカートをつかんだ。

大きな瞳で俺を見つめてる。



「…ゆーちゃんは本当に百瀬ちゃんが好きじゃない。
私たちが巻き込むことで…その恋が悪いほうに行くなんて嫌だ。


神様なら逆のことをしなきゃ」



巻き込むことで、と、また言われてしまった。


巻き込まれたって言葉、なんかしっくりこないんだよな。

だって俺が無理やり関わったみたいじゃないか。