「……悪いとは思ってねぇぞ?
てめぇだって、俺を騙してつなぎとめてたんだから」
何回も愛を交わしたリビングで向かい合い、別れを口にした。
思ったより冷静に物が言えた自分に少し驚いた。
「騙したなんてひどいこと言わないで」
「あ?騙してるだろうが。
俺の来客をことごとく敵視して俺と会わせないようにして…」
「だって、黒庵がいなくなる世界なんてもどりたくなかったんだもの」
…俺が現れる前、こいつは真人間だったらしい。
学生時代から淡々と勉強に熱を注いで、言われたことを全部やって。
それなりに学力はあれど、社会ではただの都合のいい人。
気がつけば30手前で彼氏もなく、これと言った色恋沙汰もない。
周りはどんどん進んでいく焦燥感の中、俺を拾った。
「急にこんなイケメンが現れて、少女漫画みたいな恋に落ちて。
誰にも取られたくないって思うでしょう?」
「……」
正直、好きじゃなかったのかもしれない。
目の前の女が好きになれって言うから好きになっただけというか。
事実、愛を囁けば囁くほど心は空っぽになっていて、全然満たされなかった。
「…でも、わかってた。
黒庵は大事な居場所があって、記憶はいずれ絶対に戻って。
私のもとから飛んでくって、わかってた」
表情が見えない角度に顔を下げる。
泣いてるのかもしれない。
睨んでるのかもしれない。
……悪いとは思わなかった。
ただ、こいつも悪いんだと自分に言い聞かせて、正当化したかった。


