◇◇◇
食事が終わり、さあ行こうかという時だった。
「恋敵!」
店内の注目を浴びながら、宮下さんが入ってきた。
「あ…柚邑の親戚だっ」
「恋敵?」
「宮下さん、その呼び方は止めて」
俺の友人が怪しんでるから、ものすごい怪しんでるからっ。
「じゃあ人間?」
「もっと怪しまれるから!」
「じゃなくて、スズちゃんがいないんじゃが」
見事な髭を撫でながら、うーんと宙を見上げた。
「スズがいない?や、そんなわけ…
ごめん、ちょっと待っててくれる?」
「ん?あーOK」
紅太たちに断って、店の外に出た。
ぴゅう、と寒さが容赦なく襲ってくる。
「スズー!」
叫んだ。
こうすれば、大抵そこら辺を飛んでても帰ってくるのだ。
が。
「な?いないじゃろぉ?」
「…可笑しいなあ」
“指笛は?”
アカネに言われ、指笛を吹いてみる。
甲高い音に振り返るひとが何人かいたが、きにしない。
…やはり、反応がない。
“…スズが指笛が届かないほど遠くに行く?いやそんなわけ…
アイツはいつでも私の周りを彷徨いてたし、現に山でだって…”
山でもスズは指笛で来た。
主人が大好きなスズが、聞こえないほど遠くに行くとは思えない。


