◇◇◇
「実をいうと、吾は黒庵さまの生活を密着して見ていたんです」
ストーカー?と言いたくなる言い方である。
あれから泣き崩れた彼女を放置して、帰ることになった。
だって、彼女が「帰って」と連呼するんだから仕方ない。
その帰りの車内で、ミサキくんは話始めた。
「イトという名でカラスのふりをして。そしたら、黒庵さまと親密になれまして」
カラスの方が仲良くなれる、なんておかしな話だ。
「結構前になるのですが……寝言を聞いたんです」
「寝言?」
スズが聞き返す。
ミサキくんはこくりと頷いて、また口を開いた。
「アカネ、と。お嬢様の名を口にしてらっしゃいました」
「っ、」
“…”
車内に、沈黙が降りる。
破ったのはミサキくんだった。
「彼女はそれを聞いています。彼が愛してるのは自分ではなく、誰か他人だと。
心の中ではわかっているんです」
…なんて残酷なんだ。
身代わりの関係でも、彼に固着して縛り付けて。
自分を見てるのではない相手を、離さまいと――


