「じゃあ、アカネってだれ…」
言っておくが、今の会話でアカネは出てきていない。
だありん、ハニーなら出てきてるが、相手がアカネだとは一言もいっていないのだ
すなわち、彼女がアカネを知ってるということになる。
「…山本さん。お嬢様の身代わりでいつまでもいられると本気で思ってるのですか?」
ミサキくんの低い声が鼓膜を揺さぶる。
身代わり?
「もう限界でしょう。
黒庵さまは、記憶を思い出してきてらっしゃる。
それは他ならない、アカネさまを“感じた”からです。
自分の存在に疑問を覚えれば、あなたに疑問を感じれば。
偽りの生活は綻びます」
アカネのことは見えていなかったはずなのに。
感じることはできたのか?
「…聞いたのでしょう。黒庵さまにとって本当に大事な方の名を」
「……」
黒曜石の瞳に見つめられ、罰が悪そうに視線をさげる。
「…なんで、そのこと」
「今は関係ないでしょう」
「…っ…」
ぐ、と自分の服のお腹の辺りを掴む。
泣くのを堪えてるのだと、一瞬でわかった。


