「名前は山本由美、32歳。保険会社の窓口で働いていて、彼氏なし=処女=年齢の女じゃ」
化粧っけのない、死人のような顔。
飛び出た目に痩けた頬。
仕事ばっかりといった感じの、完全に負け組。
会社の資料を盗んだのか、青い背景の業務用な写真。
体重や経歴なども記されている。
「…だったのじゃが。ある日彼女は会社帰りに落ちてた黒庵を拾って、全てが変わった。
今まで仕事ばっかりで、彼氏も何もいなかった女が、とびっきりのイケメンを拾った。
都合よくあやつ…黒庵は記憶がなく、自分の思い通りに操れる。
彼氏にするじゃろう。当然」
すぅっと、何かが抜けた気がした。
急いで回りを見渡すと、アカネが俺のからだから離れている。
「ちょ…アカネ!?」
“…”
無言。
顔は見えない角度。
「…逃げるのか。お主はいっつもそうじゃの」
目をほそめ、冷ややかな視線を送る。
「シロの時もそうじゃった。消えたのに、その事実から逃げて――黒庵に乗り換え“うっせぇよ!”
バッとアカネが振り替える。
目を真っ赤に腫らしていて、なんとも痛々しい。
…シロ?


