妄想世界に屁理屈を。


「間に合ってよかった…」

ギリギリの命だった。

宮下さんが通りかかったのが今日でなく明日だったら。

きっと彼は消えていた。


「やだよぉ…ミサキくん死なないでっ」


「朱雀」


無表情。

なのにどこか穏和な暖かみがある。

抱きついてきたスズをそうっと撫でる、その目には。



“…ちっ、無き物って見えてねーってことかよ”


「アカネ」


苛立っているのがあからさまにわかる。


「?お嬢様はなんと?」


「無き物ってことは、ミサキくんの存在が見えてないと言うことかと」


「それは違います、お嬢様」


す、と俺を、否、アカネを見据え。


「人間の姿なら、吾は肉体を持っているから黒庵さまに見えるはず。そういう意味の無き物ではなく、黒庵さまは吾を認識しなかったということ」


「え?」

“…つまりは、”

つまりは、そう。



「やっぱり、記憶喪失なんだ…」