◇◇◇


「柚邑ぉ〜!」

「おぉーいぃー」



山に、二人の男子高校生の声が響いた。

友達の紅汰(コウタ)と厘介(リスケ)が俺の名前を呼んでるのだ。


どうやら落ちた衝撃で打ったらしい、太ももの痛みに顔をしかめつつ、声を出そうと口を開いた。


「こう…」

“ちょっと黙れ”


背後から少なくとも日本ではおおよそ助けを求める人にかける言葉ではない言葉聞こえた。
え…助けてって言いたいだけなんだけど……。


“何してくれてんのアンタ…ふぁ〜あ”



あくびと共に、なにやら怒ってる女の声。

山の上から盛大に滑り落ちて転がり落ちて来た時、なにかしてしまったのだろうか。

罪悪感の中、恐る恐る振り返る。


「え…」



そこにいたのは──いや、いなかった。



無人。



視界には、深い霧に包まれた落ち葉と木々だけ。
唖然としてから衝撃が襲ってきた。


「なあっ!?」


山奥で怪奇現象なうな俺は、しばらく女を探すが、何も見つけられない。


「…まあ、女なんているわけないか…」


はあ、とため息をついて、また叫ぼうとした。


その時だった。



「りす…“だーかーらー!叫ばないでよ人間!”


またしても遮る女の声。

いい加減イラついてきた俺は、見えないそいつに怒ろうとして、振り返る


「だ、誰だよっ」


振り返ると、やはりそこは無人だった。


「はあ?」


今確かに声が聞こえたのに。

登山ルートから外れて落ちただけでなく、怪奇現象にも遭遇しなくちゃならないなんて。

まだくまじゃないだけましなのだろうか。