「松蔵を責めちゃいけねぇよ、マツコ。お前のじいちゃんはなぁ、一気に二人とも両親が死んだなんて、まだちっちゃいお前にはとても言えなかったんだ。まぁ幸子は骨を拾う事が出来たけどな、章史さんは・・・鬼姫と一緒に祠の中に消えたからな。ある意味、嘘はついてねぇ・・・だって、お前の父ちゃんは、死んだかどうだか、はっきりしてねぇんだから」


 そこまで聞いて、あたしは、いたたまれずに・・・口元を押さえた。
 ダメだ、ここで泣いたら。
 また、みんなに心配かけちゃう・・・。


「マツコ・・・」


 久遠くんが、またあたしを抱き締める手に力を入れてくれる。
 久遠くんには伝わっている筈だ。
 あたしがこんなに、震えているのが。


「あの時の松蔵はなぁ、章史さんが生きていると思わずにいられなかったんだ。章史さんがこんな事を言い出さなければ、幸子も死ぬ事はなかった、戻って来たら絶対にぶん殴るってな」


 鬼姫を退治しようと言い出した父さん。
 でも結果――母さんが死んで、父さんも行方不明。
 そして、鬼姫を退治しに集まった人達も、みんな死んでしまった。
 残るは、このあたしだけ――。
 それも、退魔師の宿命から逃れさせる事も出来ずにまた、この町は呪いのある日常を送る――。


「ひとつ、俺も質問があるんだけど」


 ふと、久遠くんが口を開いた。
 シゲさんは、久遠くんに視線を送る。


「あぁ、もうここまで話したら隠すことはねぇよ。何でも聞いてくれ」
「マツコのお父さん・・・章史さんは、どうやって鬼姫を呼び出したんだ?」


 シゲさんはまた、ため息をひとつ。


「――・・・何でも、呪符か何かを使って自分の事を鬼姫に錯覚させたんだとよ。章史さんは、鬼姫に自分の事を侍だと思わせた。そして、あの祠の扉を開けたんだ」


 あたしははっとして、久遠くんの顔を見上げた。
 久遠くんは、表情を変えずに・・・それでも真っ直ぐに、前を見つめている。
 そして、あたしの肩を抱いていたその手を、そっと離した。


「久遠くん・・・?」


 あたしが呼び掛けると、久遠くんはふっと笑う。


「じゃあ、鬼姫を呼び出せる可能性はある訳だな」
「可能性?」


 こっちを振り返り、幹久が聞き返す。
 久遠くんは、はっきりと、みんなに向かって言った。


「俺はその侍の子孫だから――血が繋がった人間なら、鬼姫を呼び出せるかも知れない」


 ここにいる全員が、食い入るように久遠くんを見つめた。