短刀は最早あたし達の身体全体を包み込むくらい、大きな光を放っている。
 その光が風に乗って流れ、祠へと向かう。
 あたし達は支え合ったまま、じっと祠を見つめていた。
 祠へ流れて行った光は、塊となって一層眩しく輝く。
 あまりの眩しさに、あたしは思わず目を細めた。
 光の粒子は、だんだん固まっていき。
 鮮やかな色彩を生む。
 真紅の、十二単。
 それにも負けない、漆黒の艶やかな黒髪。
 そして、透けるような白い肌をした細い顎。
 その顎は、つい、と、夜空を見上げた。


「今宵は・・・満月・・・」


 着物にも負けないくらいの紅い唇から漏れたのは、鈴が鳴るように透き通った声音。
 あたしは久遠くんから離れ、身体を祠の方へ・・・いや、鬼姫に向けた。
 光に包まれたまま、鬼姫はあたしの方を見る。
 ゴクリと、あたしは喉を鳴らした。
 そこにはまさに絶世の美女と言っても過言ではない、一人の姫が立っている。
 あたしなんか足元にも及ばないくらい、清楚で気品に満ちたその出で立ち。
 その出で立ちは、到底、鬼には見えなかった。
 伝説が本当なら、目の前にいるこの女の人は、悲しい運命を辿った一人の姫なんだ。
 同じ女として、同情する。
 だけど、鬼姫は、ふと、その口元を釣り上げた。
 そして、さっきと同じく、綺麗な声音で言ったのだ。


「お役目、ご苦労だった」


 その言葉は、間違いなくあたしに向けられていた。