「お邪魔してますっ。すみません、お留守かと思って、ご挨拶もなく……」

 慌てて立ち上がって頭を下げると、雪美さんが苦笑した。

「ごめんごめん、この人おる言うん忘れとったなあ。起きてこんもんやと思うとったから。もお、女子バナ盗み聞きせんでやー」

「せやかて、おしっこしたあなって起きたら、とーるがどうこういうんが聞こえてきてなあ。なんや、どいつもこいつもとーぐんとーぐん言うて、ここはおっさんが西軍の応援したらな思うて来たんやんけ」

 とーぐんというコンビ名の由来は、透琉くんの「とう」と群ちゃんの「ぐん」をくっつけたという単純なものではあるけれど、関西勢が幅を利かせているお笑い界で、関東勢も頑張って行こうぜという意味で「東軍」を文字ったものでもある。
 意外と知られていない裏の意味を、久遠さんがちゃんと知ってくれているのは、透琉くんたちへの愛情だなと思う。

 コンビ結成二年にして、急ブレイクしたとーぐん。

「面白い」よりも「かっこいい」が先行している人気を面白く思わないのは、透琉くん本人もだけど、下積みの長い先輩芸人さんとか、差がついてしまった同期の芸人さんたちもだろうなと思う。

 実際ボロカスに言われてるのをよく目にするけれど、言う側も言われる側も笑ってネタにしてる。
 芸人さんの、何でも笑いに変えられるところが、凄いなあ、かっこいいなあ、好きだなあと思う。

 特にとーぐんを可愛がってくれる先輩や同期の芸人さんたちは、みんな人がいい。

 それは透琉くんが天性の憎めなさで、そういう人たちを引き寄せるからというのもあるし、透琉くんが自己中を発揮しても、冷静で気の利くぐんちゃんが上手く立ち回ってくれるからでもある。