“好きな仕事だけやりたいっていうのは、それだけで飯食っていける人間だけが許される我がままです”
永原さんの言葉がやけに胸に響いた。
そうか、そうだよなあ。
世の中、本当に好きなことを仕事にしている人ってどのくらいいるんだろう。
透琉くんは漫才が好きで、喋りで人を笑わせるのが好きで、それを仕事にして、やっていけている。
芸能界という厳しい世界で、成功するのは本当に一握りの限られた人たちだから、とーぐんの二人はとても恵まれている。
ドラマ出演にしても、出たいと思っても出られない人は星の数ほどいるだろう。
彼らが喉から手が出るほど欲しがっているものを、要らないと言ってしまう透琉くんは、我がままだと言われても仕方ないんだろうか。
「あっ小西さん、お疲れ様です」
仕事帰り、駅に向かう道でばったり遠藤君に遭遇した。
「あ、お疲れ様です。桧原電機、大変だった?」
今日は一人で販売店フォローに出ていた遠藤君。
遠方の訪問エリアにある、とある店長の話がくどいので有名だから、それで帰社が遅くなったようだ。
それでも予定時間より早いのは遠藤君らしい。
「ああ、いえ大丈夫でした。けど、今から戻ると調子悪いかなあ……」
なぜか困ったような口ぶりで、遠藤君はちらりと視線を脇に流した。
「小西さん、コーヒー一杯だけ付き合ってもらえませんか?」
視線の先には、すぐそこにあるコーヒーショップ。
オフィス街の駅に近いということもあり、客層は私たちのような会社帰りの会社員や、仕事の打ち合わせ、待ち合わせに使う人が多い繁盛店。
お店の選択に違和感はないけれど、遠藤君のお誘いには違和感を覚えずにいられなかった。
「えっ」