気を使ってくれたらしい、久遠さん夫妻が先に立ち去り、少しの猶予が与えられる。

 透琉くんと見つめあった。

「じゃあ行くね、菜々ちゃん。今日、仕事終わったら……多分十一時頃、電話するから」

「うん、分かった。時間は気にしないで。今日、疲れてたら明日でもいいし」

「うん、ありがと……」

 名残惜しそうに私の手をとり、指先を絡ませる透琉くんが、はっとしたように

「あっ」

と言った。

「どうかした?」

「……しまった。俺って、ホント段取り悪いのな。ごめんね、菜々ちゃんまた今度」

「いいよ、大丈夫。明日でも、明後日でも。透琉くんから電話があるって、待つ予定があるだけでも幸せなことなんだなって、気付いたもん。透琉くんと別れたあと」

 わわ、ちょっと臭かったかな。
 でも本当のことだし。

 一瞬呆気に取られたような顔をした透琉くんは、突然がばっと私を抱きしめた。

「あああ、もう菜々ちゃん。ヤバイっ好きっ。どうしてそんな可愛いんだよう、やだもう連れて帰りたい! そんでもうどこにも出したくない、けどそんなヤンデレみたいなこと言うと怖いから、言わないけどっ」

 って、全部聞こえてますけど!?
 そんなこと言われると、嬉しくてヤバイ私もヤバイよ!

 急に暴走ラブした透琉くんは、ぐいと私の肩を押し戻すと、ふうと深呼吸した。