「三上くん、おはよう」
「…ああ、おはよう酒井さん」
三上くんが振り返り、メガネを直す。
黒髪がさらりと揺れた。
朝から隙もなく見事に優等生。
三上くんを見ると、なぜだかほっとするよ。
「どうかした?」
「え?」
「なんかコワイ顔してたか…」
三上くんが言いかけたところで、後ろから誰もが振り返るような大声が上がる。
「美緒~! また後でな~!」
あたしは振り返らずに、ギリリと歯を噛み合わせた。
あの脳天気さに強引さ、おまけにふざけた感じ。
やっぱり誰かに似てる気がする。
隣りの優等生はちらりと振り返り、「ああ」と頷いた。
「あれか…。なんか大変だね」
気の毒そうに三上くんは、あたしを見てそう言った。
でもその口調はあくまで他人ごと。
それはそうだよ、他人ごとだもん。
あたしの平和な日々が、遥か遠くへと逃げていくのを感じた。


