ラーメン屋を出た後、家の近くまで送ってくれた恭一は、あたしからメットを外して言った。
「美緒ちゃん。いつでも呼んでね?」
「なんで?」
「なんでも。俺は美緒ちゃんに呼ばれたら、その瞬間から世界一ヒマな男になるから。ヒマになった時間はぜんぶ、美緒ちゃんの為に使うから」
「…なにそれ。バーカ」
恭一は笑って、あたしも笑って原チャを見送った。
彼女がいる男の言うセリフじゃないだろ。
寂しい街灯の明かりの下で、悲しくなるだけの突っ込みを心の中でしたとき、後ろから聞き慣れた声。
「美緒?」
振り返ると、広い通りの方からスーツ姿のお父さんが、こっちに歩いてきていた。
「お父さん。いま帰ってきたの?」
「ああ。お前も遅かったな」
「ちょっとね」
「…いまのは彼氏か?」
原チャが去っていった方角を見て、お父さんが低い声を出す。


