「なにそれ。んじゃなんの為にあたしに思い出してほしいのよ。あんたが得するようなこととか、ないの?」
「得ねぇ…」
深田恭一はカウンターに肘をついて頭をかく。
「損得のモンダイじゃあ、ないんだよねぇ…」
そんな次元の話じゃないんだ。
遠い目をして呟く。
それと同時にラーメンが2つ、ずいと無言であたしたちの前に差し出された。
「あれ? 美緒ちゃんのチャーシュー多くない?」
割り箸を割りながら、恭一が店長に文句をつける。
店長はチラリとあたしを見て、そそくさとカウンターの奥へ行ってしまった。
「あんな顔して、かわいいコに弱いんだよ~」
ニヤニヤと笑う恭一の何気ない言葉。
可愛いなんて、あんまり言われたことない。
くすぐったい気持ちになる。
それに恭一の口から『可愛い』って言葉が聞けたことが、あたしの心に強く作用した。
小さな店のチャーシュー麺は、とても美味しかった。


