大きな右手が差し出された。


「ありがとう、美緒ちゃん」


お礼を言われる理由がよくわからなかったけど、あたしはその手を握った。

涙はない。

笑顔は消さない。


「ひとつだけ」

「…なに?」

「あの曲は、本当にキョンキョンにとって特別だったんだ。だって、美緒ちゃん一人に向けて作った曲だから」


いたずらっぽく微笑んで、目の前のタレ目がウインクする。


「逆さまだよ。そうすればきっと、アイツのメッセージが見えてくる」

「メッセージ…?」


よくわからなかったけど、それ以上は説明してはもらえなかった。

日が完全に落ちて、「もう帰ろう」って言うから、あたしはそっと握っていた手を離した。


「ここでいい」

「美緒ちゃん?」


どうかしたのかって覗き込んできた顔。

あたしは笑顔を作って、その唇に小さくキスをした。











三度目のキスは、涙の味がした。