「うん。さっき思い出した。…電車で、でしょ?」
あたしがうなずくと、矢沢エイジはぱっと嬉しそうな顔になる。
「そっか、思い出したんだ。あん時ね、俺も近くにいたんだよ」
「そうだったの…?」
「うん。びっくりしたよ~。あのキョンキョンがカッコ良く女のコ助けちゃうんだもん。まあ、その後がちょっとキマらなかったけどねぇ」
その後…?
あたしは首を傾げた。
その後どうなったのかなんて、本当にまったく覚えてなくて。
「覚えてない? アイツね、美緒ちゃんからハンカチ渡されたら、顔真っ赤にして逃げたんだよ」
「逃げたの?」
「そう。あそこで美緒ちゃんに優しく声かけてれば、王子さまになれたのにさぁ」
そうだったっけ。
でも確かに、あたしは助けてくれた人の名前を聞きそびれて、それからしばらく電車に乗るたび、その人を探してた。
「それからキョンキョンは電車に乗るのやめちゃってね。俺はハンカチ返すのを口実に、お近づきになればって言ったんだけど」
恭兄ちゃんは、あたしとさらに距離を置いたんだって。


