そう聞いたら殴られたけどねって、矢沢エイジがグーで自分の頬を殴るマネをする。


「だってさあ、相手は可愛らしい中学生でさ。用もないのにわざと同じ電車乗ったりして。隠れてこっそり見てるんだもん。そりゃ怪しく思うでしょ」

「……うん」

「ベタ惚れなんだなーって。だからそんなに好きなら告白すればって言ったらアイツ、出来るワケねえだろってまた殴るんだよ」


クールぶってるくせに、ハルカ並みに手が早い奴だったって、矢沢エイジが笑う。

ハルカさんに並ぶなんて、よほどだなって思った。


「そん時はさ、言えないのはロリコンて言われるのがこわいからかなとか考えたけど。本当の理由を教えてもらったのは、それから随分経ってからだった」


アイツが死ぬ間際だったって、矢沢エイジがため息まじりで言った。

それからまた沈黙。

切なさと悲しみばかりが満ちた空気の中で溺れそうになった時、隣りの男が突然吹き出した。


「な、なに?」

「ぶはは! いや、ごめん。ちょっと思い出し笑い。…あのさ、美緒ちゃん。実はね、美緒ちゃんはもうけっこう前に恭一と会ってんだよ」