けど、お礼を言うのはなんだかしゃくで。

恭兄ちゃんのやったことを許すことになっちゃう気がして、言えなかった。

あたしはそっと、大きな手を握った。


「今度こそ全部、本当のことを話してくれるよね?」

「…でも、キミはもう」

「知りたいの。恭兄ちゃんが、どんな人だったのか。何を考えて、何を思って、こんなことをしたのか」


知ることだけが、この世にいない恭兄ちゃんに近付く、唯一の方法だと思うから。

そうあたしが言うと、矢沢エイジはまた涙ぐんで鼻をすすった。


「キョンキョンが聞いたら、泣いて喜ぶなあ」


へらっと笑って、頷いて、あたしの手を握り返してくる。


「恭一と出会ったのは高校で、バンドのヴォーカルに俺が勧誘したのが始まりだったんだ。完璧に拒否られてねぇ。でもめげずに猛アタックして、やっと仲間に引き込んだ」


懐かしいなって呟いて、矢沢エイジは天井を仰ぐ。

空でも眺めるみたいにして。


「その頃からもう、アイツは美緒ちゃんを見てたよ。俺最初、キミのストーカーでもしてるんじゃないかって思ったもん」