「脳腫瘍だったの」
仏間を出て、廊下の奥にあった階段を上りながら、恭子さんがポツリと言った。
「大学一年の冬に腫瘍が見つかって、即手術したけど、難しい場所にあったのね。すぐに再発して、そのまま……。病気がわかってから、あのコがいなくなるまで…すごく、早かった」
きっと、その時のことを思い出しながら恭子さんは話してるんだろうけど。
あたしには、想像もうまくできなかった。
記憶もあいまいな幼い頃以来、きちんと話したことのない腹違いの兄。
あたしは恭兄ちゃんの何も知らないから。
病気で苦しんでいる姿なんて、想像できるわけない。
あたしは彼の、笑顔すら知らないんだから。
「恭一はいつも、遠くを見てたわ。何かを考えてるみたいだってわかってたけど、何を考えてるのかはわからなかった」
黙って恭子さんの話に耳を傾けながら、彼女の後に続いて上る階段は、なんだかとても長く感じる。
「いま思うとあれは、何かに耐えてるみたいな表情だったかもしれない。あたしは恭一のあの顔を見て、あのコがどこかへ行ってしまうんじゃないかって不安になることもあったの」


