なんの冗談かって。
一瞬湧き上がった怒りが噴き出すより先に、頭が冷静になっていく。
あたしはずっと、『深田恭一』っていう存在を思い出してから、悪い夢でも見てるような気分でいた。
でも、違った。
逆だったんだ。
あたしはあの男に、矢沢エイジに、
良い夢を見せられてたんだ。
すべては、この真実を隠すため。
あの男の謎、秘密、嘘。
そのすべての答えが、これだったんだ。
深田恭一は、留学したんじゃなくて。
日本からいなくなったんじゃなくて。
この世にすでに、いない人だったんだ。
「美緒さん?」
目眩がした。
足元が、視界が、世界が大きく揺れて歪んで。
立っているのが、やっとで。
「美緒さん? どうしたの?」
恭子さんが、あたしの様子に眉をひそめて目の前に立つ。
あたしは仏壇から目が離せなくなってて、震える声をしぼりだした。
「亡くなって、た………?」
短い言葉に、あの男のそれに似たたれ目が大きく見開かれた。


