「美緒ちゃん走れ!!」

「は!? 何で!!」


恭一は有無を言わさず、あたしの手を掴んで走り出した。

混乱しながら後ろを振り返ると、学校の前の道路を黒塗りのベンツがバックしていくのが見えた。

もしかして、この道に入ろうとしてる?


「あ、アンタ、何に追いかけられてんの!?」

「ええっ? いやあ、俺ってモテモテで! 困っちゃうよね~!」


走りながらもヘラヘラ笑えるなんて、器用な男だ。

一体何にモテモテなんだ。

黒塗りベンツなんて、あたしにはヤーさんしか思い浮かばない。


「どこ行くの!?」

「この先の駐車場に原チャ停めてるから! そこまで走って~!」

「もう! 勘弁してよね!」


後ろはもう怖くて振り向けないから、あたしは手を引かれるままひたすら走った。

広い背中だけを見て、ただ走った。

今日はTシャツに隠れて、あのトライバルは見えないのが、なんだか少し残念だった。