先に降りた千堂さんが車のドアを開けてくれる。


「送っていただいて、ありがとうございました」


外に出て、それぞれに頭を下げると千堂さんは下げ返してくれた。

もちろんハルカさんは無反応。

千堂さんが中に戻り、またベンツが動き出す。

すると後部座席の窓が下りて、ブルーグレイの瞳と目が合った。


「……あのさァ」

「はい?」

「……いや、やっぱりいいや」


不機嫌そうに眉を寄せて、彼は目をそらした。


「さよなら」


素っ気ない別れの言葉と同時に、スモークのかかった窓が閉じられる。

閉まりきる直前、花びらみたいなハルカさんの唇が、なにか呟いたように見えたけど、

声は聞こえなかった。

闇の向こうに走り去るベンツを見送って、あたしは空を見上げた。

雲が少しだけ晴れて、月がひかえめに顔をのぞかせている。

最後にもうひとしずく、涙がこぼれた。







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