車が家の前に停まっても、あたしは動けなかった。

ハルカさんがイライラしたように脚を組みかえる。


「いい加減にしてくれない? 俺が泣かせたみたいじゃない」

「坊ちゃんが泣かせたんでしょう」


運転席から低い声。

千堂さんはどこかあきれたように言った。


「ティッシュくらい差し上げたらいかがです。すぐ横にあるでしょう」

「うるさいよ千堂。お前はいつからフェミニストになったんだ」


そう文句を言いながらも、ハルカさんはあたしにティッシュの箱を差し出してくれた。

ありがたく受け取ってびしょびしょに濡れた顔をぬぐう。

少し、落ち着いてきた。

堅く握りしめていた手を開いて、取り戻したネックレスを見下ろす。


これで、よかったんだよね…


自分に言い聞かせて、チェーンを首にかけた。




もう絶対になくさない。

絶対に。