彼女は壁に背を預けて、しばらく黙っていた。
その横顔には、懐かしさみたいなものが浮かんでいるように見える。
「…比べちまったらその時点で、大切なものじゃなくなるんじゃないの」
「え?」
「比べられるようなモンじゃないから、大切なんだろ」
彼女はジーンズをはいた細い脚を組んで、黒いブーツの先を揺らす。
「世の中には、何でもかんでも優先順位つけて、いざとなったらバンバン切り捨てられるような奴もいるけど。賢いっつーか、合理的っつーかさ」
ハルカさんが、そういうタイプだろうか。
でも彼は、大切なものはひとつしか持たないと言っていた。
彼の大切なものって…恭一?
ありえそうで嫌だ。
「あたしは頭悪いから、そういうのはムリだね。どっちもはなさない」
「選ばなきゃいけなくても、ですか?」
まったく、あたしは何を訊いているんだろうか。


