恭一の顔が歪んだ瞬間、小さな悲鳴がファンから上がる。
アイツの手は空を切り、だらりと下にたれ下がった。
「恭一…っ?」
前のめりに倒れかけた体を支えたのは、
いや、恭一のお腹に拳をめり込ませたまま、アイツの体を引き受けたのは、ハルカさんだった。
膝からくずれた恭一を、肩を組むようにして引きずり、ベンツの後部ドアを開いて中に放り込んだ。
「待って! ハルカさんっ」
思わずそう叫んだけれど、彼はあたしの声にはピクリとも反応しない。
「行け、千堂。コイツ、外に出さないで」
ハルカさんは乱暴にドアを閉め、走り去るベンツを怒りに満ちた目で見送る。
あたしは呆然とベンツの後ろ姿を見た後、自分の右手に目を落とした。
届かなかった右手。
もう少しで、アイツに届きそうだったのに。
悔しくて、さみしくて。
あたしは手をぎゅっと握り、涙が上がってくるのをこらえたら、
「…やっぱり来てたんだ」
中性的な冷めた響きの声がした。


