馨さんが仕事に戻り、一人になる。
あたしは壁際の本棚から、あの三上くん曰わく『らくがき帳』を取った。
ペラペラとめくり、あの青いバラのページで手を止める。
「やっぱりいいな、この絵…」
席に戻り、お茶を飲みながらゆっくり眺めていると、甘い匂いがしてきて、あたしは顔を上げた。
すぐ横に、三上くんが小皿を片手に立っていた。
「また見てる」
「あ。もしかして、見られるのやだ?」
「いや…酒井さんならいいんだ」
さらりと言って、彼は前に座る。
それってやっぱり、あたしは特別ってことなのかな。
そう思うと嬉しい。
けど、
同じくらい切ない。
「これ、落合さんから。サービスだって」
言いながら三上くんがテーブルに置いた小皿には、甘い香りのクッキーが。
焼きたてだろうか。
「おいしそう。後でお礼言わなきゃ」
「そうだね。…馨さんと何話してたの?」
「え?」


