「あ。…あの、手。血が出てますよ」
お兄さんの左手の指先に、血がにじんで垂れそうになっていた。
あたしがそばにあったティッシュケースを差し出すと、お兄さんはにこやかに笑って、さっきまで三上くんがいた場所に座った。
「さっき引っかかれたんだよクインに。っとに可愛くねぇ」
「絆創膏ありますけど、使います? ちょっと小さいけど…」
カバンからポーチを出して、絆創膏を一枚抜き取る。
それを差し出すと、いきなり手のひらごと掴まれた。
「ちょ…っ」
「名前は?」
「は?」
「名前だよ」
「酒井ですけど…あの、放して下さい」
「下の名前は?」
「はあっ?」
「酒井、なんてーの?」
徐々にお兄さんの顔が近付いてきている気がして、あたしは焦って答える。
「美緒です! 放して!」
力一杯こめて振りほどく。
お兄さんはあっさり解放してくれたけど、顔を離そうとはしない。


