三上くんがため息をついたと同時に、部屋の扉が開かれた。
「優」
「なに、兄さん」
「クインにコーヒーぶっかけちまった」
お兄さんの軽い告白に、三上くんの顔色が変わる。
「風呂入れようとしたんだけど、アイツ逃げやがるから…」
「まさか火傷なんかさせてないだろうね」
声を低くしながら三上くんは立ち上がる。
お兄さんは「まさか」と手を振って否定した。
「アイスコーヒーだよ。濡れたまんま逃げるから、あちこち汚れてっかも」
「仕方ないな。ごめん酒井さん、ちょっと待っててくれる?」
「あたしも手伝おうか?」
「大丈夫。酒井さんが引っかかれちゃうよ」
三上くんは袖をまくり上げながら、お兄さんの横をすり抜けて出て行った。
トントントンと、階段を下りていく規則的な足音が消えても、お兄さんはドアの前から動かない。
「…お兄さんは、行かないんですか?」
沈黙が気まずくて訊いてみる。
「あの猫、俺にちっとも懐かねーんだよ」
まあ確かに。
動物に好かれそうな雰囲気じゃないな。
どちらかというと、警戒されそうな雰囲気だ。


