「ホントに俺の名前、聞いたことない?」


さっきより、ちょっとだけ真剣な声。

仕方ないとため息をついて、男の顔をじっと見上げた。

高い鼻、垂れ気味の目、反してキリっとした眉、笑うのが得意そうな大きい口。

細身で手足が長く、若干猫背な男は、黙って立っていればカッコイイ部類に入るだろう。

でもとりあえず表情に締まりがない。

こんなヘラ顔、どこかで見たっけ?

深田恭一、深田恭一、フカダキョウイチ……

眉間にシワを寄せて考える。

ただでさえ目がつり気味で、こんな顔したらよけいキツく見えるっていうのに。

でも考えても深田恭一なんて名前に聞き覚えはなく、男の顔にも見覚えはなかった。


「やっぱアンタなんか知らない」


きっぱり言うと、相手はがくりと肩を落とした。

何なんだ一体。


「アンタ誰? 何であたしのこと知ってるの」

「んー…俺が何者かってのは、キミの家族が知ってるかもね、美緒ちゃん!」


男は顔を上げてあたしの肩に手を置き、ウィンクしながらぺ○ちゃんみたいに舌を出した。