発車時刻ギリギリに乗り込んだバスは、時間が時間だけに客がまばらだった。

制服を着ている客はあたし以外二人ほどしかいない。

前の方の一人掛けの席に座ってすぐ、バスが動き出す。

くもった窓に、ため息を吹きかける。

マフラーを緩めようと手をかけたとき、指先に首元のネックレスが触れた。


大丈夫。

あたしが好きなのは…。

あたしが今好きなのは、三上くんだ。


バスの揺れに眠気を誘われて、まぶたが徐々に落ちていく。

いけない。

寝過ごしたら遅刻決定だ。

こんな日に限って、ユウナ先輩からもらったMDを忘れてきてしまっていた。

あの中の曲を聴いていれば、少し元気になれるのに。

MDの最後、ユウナ先輩も好きなバンドの曲を頭の中で歌いながら、ぼうっとしていると。

しばらくして突然、目の前に恭一の顔がひょこっと現れた。

前の席から、こっちを振り返ったんだ。


何でコイツがここに?


驚いて声も出せずにいると、恭一はいつもの調子でヘラっと笑った。


「ごめんね美緒ちゃん」


また、ごめん?

何に対して謝っているの?


「全部、嘘だったんだ」




………え?