ここに、アイツの唇が触れた。

一瞬だけれど、あたしたちは重なった。

ただその事実があたしの体を震わせる。

アイツの存在が、あたしにとって、『兄』から『男』へと戻るのに、充分すぎる出来事。


「どうして……」


キスの直前に、聞こえてきた恭一の呟きを思い出す。

かすれていて、雪のように夜の空気に溶けて消え入りそうな声でアイツは、



『ごめん』



確かにそう言った。

何に対しての懺悔だったのか。

誰に対しての懺悔だったのか。

わけがわからないけれど、あたしの目から涙が零れて落ちた。

決めていたのに。

もう恭一のことで泣いたりしないって。

そう心に誓ったはずなのに。

自分でも気付かないくらい静かに、あたしは泣いていた。









一月十五日。


長い冬休みの中のたった一日。

その日はあたしの…

十六歳の誕生日。









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