バッグから出したのは、黒い手袋。
ワンポイントが入っているだけの、何の変哲もない手袋だ。
「三上くんはいっつも寒くないって言ってるけど、ほら、手が荒れたりとかするといけないから…」
「これ…酒井さんが編んだの?」
「う、うん。けっこう上手くできたんだけど、でも、気に入らなかったら使わなくても大丈夫だから」
毎日肌身離さず使ってほしいなんて、本当に考えていなかった。
ちょっとした気持ちだ。
いつも助けてもらっているし、カイロももらっているし。
「右手がクインで、左手がグランパのつもりなんだよ」
小さく、右手の甲の下部分に、ネコの形を。
左手には犬の形を、三上くんが好きな青の毛糸でいれた。
これがすごく難しくて、何度もやり直したことは秘密だ。
「わかるよ、上手だね。ありがとう。使わせてもらう」
上手だね、はお世辞だろうけれど。
彼が嬉しそうに笑ってくれたから、あたしはそれだけで満足だった。


