指が、震えながらボタンを押した。




『着いたよ。
        三上』




人のざわめき、噴水の水音、車のクラクション、近くの店からもれるクリスマスソング。

それらすべての音が、一瞬世界から消えた後。


「酒井さん」


静かな声が、あたしの肩を叩いた。

顔を上げれば、いつもの涼しげな表情の彼が立っていた。

ライダースデザインの短いコートに細身のパンツ。

相変わらず手袋もマフラーもしていなくて、薄着に見える格好だけど、三上くんはちっとも寒そうな顔はしない。


「すごい人だね」

「………」

「…酒井さん?」


不思議そうに、三上くんが首を傾げる。

あたしは携帯電話をバッグにしまって、笑顔を見せた。

自分がすごく、汚く思えて泣きたくなったから、むりやり笑ったんだ。


「ほんと人多すぎ! 早く移動しよ!」

「…うん」


あたしは三上くんの腕を引き、人の波から逃れるように、広場の前を後にした。

携帯電話の電源は、切っておいた。