お母さんは目を丸くして、お父さんはコーヒーカップとソーサーを軽くぶつけた。
「あんた、彼氏いたんじゃないの? ほらこの間来た…」
「あれは彼氏じゃないよ」
「なぁんだ、残念」
「彼氏じゃないけど、好きなの」
お父さんは無言だったけど、ずっとあたしたちの会話を気にしていた。
お母さんはそれを見てニヤニヤしてる。
あたしだけが、冷めた気持ちでいた。
「あのかわいいコ、名前はなんだっけ?」
お母さんの問いに、あたしは少し思案した。
ごちそうさま、と立ち上がり、お弁当を持って玄関に向かう。
リビングを出る直前、一度振り返り、お父さんを見ながらあたしは答えた。
「…深田恭一」
「え?」
「あいつの名前。深田恭一っていうの」
お父さんが、カップに伸ばしかけていた手を止めた。
それを確認して、あたしは家を出た。


