銀三の店内にはお客さんがちらほらいて、あたしが普通の状態であれば、食欲をそそられただろう匂いが満ちていた。
「おやっさん、こんちは。奥いい?」
カウンターの中、湯気の向こうで働いている店長らしき人が、恭一を見て、あたしを見て頷いた。
タオルを頭に巻いた店長は、相変わらず不機嫌そうに眉間にシワを寄せている。
目が合ったから、あたしは頭を下げた。
店長はまた無言で頷いて、仕事を再開する。
狭い店内の奥にある扉を開いて、中に入る。
そこは小上がりのような小さな畳部屋になっていた。
従業員の休憩場所、みたいなものだろうか。
古いテレビ、簡素なテーブル、タバコの吸い殻が山積みになった灰皿、冷蔵庫にキッチンもついている。
「テキトーに座ってて。テレビ見ててもいいよ~」
恭一はシャツの袖をまくり上げながら言って、冷蔵庫を開けた。
「…なにするの?」
「んー? うどん作るのォ」
「うどん? ラーメン屋で?」
「だって、ラーメンなんて重いもの、美緒ちゃん食べられないっしょ?」
ネギを片手に恭一は笑う。


