「もう少し噂が落ち着くまで、続けさせてな」


二度も先輩をフッたあたしを、昨日の店でそうやって彼は、まだ守ると言ってくれた。

それに対してあたしは、いらないとも、ありがとうとも言うことができず、ただ頷いて返した。

店を出る前に、あたしはずっと気になっていたことを訊いてみた。


「どうして…あたしだったんですか?」


フッておいてこんなことを尋ねるのも、失礼かなと思ったけれど、コータ先輩は気にした様子もなく答えてくれた。


「たぶん美緒は覚えてないと思うけど。前に俺、美緒に怒られてんだよ」

「…あたしが? 先輩を?」

「美緒が入学してすぐだったと思う。バスの中で」


まったく覚えがなかったあたしに、先輩は「やっぱりな」と笑った。